リオ五輪のチケット価格と売残り

日本人アスリートのメダルラッシュが続いている。テレビのスイッチを入ると同時に、オリンピック中継にチャンネルを合わせるご同輩も多いことだろう。そのテレビ中継の画面をよくみると、観客席に空席が目立つことに気がついておられるだろうか。8月5日の開会式直後に、公式サイトでチケット販売状況を確認した。ほとんどの競技で残チケットを確認することが出来た。リオまで行けば、よほどの人気競技でなければ、当日にチケットを購入し観戦することが出来るということだ。観光客には朗報だが、スポーツマーケティングを行っている者としては嘆かわしい事実である。

ウサイン・ボルトの金メダルが期待された、陸上男子100mのチケットはR$350R$1200(1R$=30円)と高額だが8/5時点で購入可能な状態だった。ちなみに陸上競技で8/5時点で完売のチケットは存在していない。陸上競技に関してはR$100〜R$1200と高額だ。ブラジルで人気競技のサッカー決勝はR$380〜R$900で8/5時点では空席があった。

バレーボールの決勝も陸上競技同様に高額でR$350〜R$1200だが8/5時点で完売だった。陸上競技場とは収容人数が異なる事が関係していると考えられる。バスケットボールはアメリカの出場スケジュールに合わせて完売しているところを見ると、団体ツアーが購入しているのではないだろうか。

ロサンジェルスから、リオデジャネイロまでの移動時間は15時間、ニューヨークからは10時間、シカゴからは13時間、マイアミからなら9時間でオリンピック開催地に行くことが出来る。パリからは11時間、ロンドンからは12時間、ベルリン14時間、北京からは23時間、マドリードからは25時間、成田からは25時間かかる地域での開催は、海外からの観光客を集めるのが難しかったのだろう。治安の問題や感染症の問題も、海外観光客の足を重くしている要因の一つだ。日本の外務省は「十分注意が必要な地域」として指定しており、特にジカウイルスとテング熱(両方とも蚊による感染)への警戒を十分にするように警告している。

 リオ五輪にとって最大の顧客は北米と、直行便が飛んでいる欧州であり、時差の少ないアメリカの富裕層に魅力的に見える大会にすることが出来たか否かが、マーケティングの成否を握っていると言えるだろう。メダルの数は8/19現在アメリカが95、イギリスが55、中国、ドイツと続いている。競技力が高く、経済的に安定成長をしている地域からは地政学的には有効であったと言えるだろう。

しかしこのチケットの売れ残りは、ブラジル国民に手の届く価格では無かったことが重大な問題だと考えられる。一人あたりGDPは14,987ドル(World Economic Outlook Database)と世界73位(188カ国中)で、経済的には開発途上国と言える状況だ。すこし強引だが、一人あたりGDPは14,987ドルをイメージしやすくすると、年収150万円程度が多くの一般市民であるということだ。前出の陸上競技のチケットR$350はおよそ$100と、ブラジルの平均的な市民にとっては高額だ。私達日本人にとっても、ボルトの走るレースを見るために1万円以上の出費をするには覚悟が必要だ。この価格設定がリオ五輪の最も失敗したところではないだろうか。海外からの観光客でオリンピックスタジアムは埋まらない。移動時間や宿泊費などサンクコスト(埋没費用)も大きい。前回2012年のロンドン、前々回2008年の北京と比較してチケット価格の設定を行ってしまったのではないだろうか。

2020TOKYOでは、チケット価格も高くなるだろう。日本の経済は堅調で国民所得も多い、IOCもJOCも強気で価格設定してくるだろう。収益確保も大事だが、開催国国民に優しい価格設定がされないと、観客席がガラガラという事態を繰り返しかねない。消費者心理をよく理解しているマーケッターが、2020TOKYOの実行委員にいることを祈るしかない。

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